MY GAME LIFE

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『エースコンバット7』はもはや面白くないフライトゲームへと成り果てた

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こ数日ずっと考えていた。

物事を正しく伝えるにはどうしたら良いのかと。

 

 作品に対する批評とは主観的なものだ。 必ずしも賛同を得られるわけではない。蔑まれることだってある。

 私自身が批判されるのは一向に構わない。しかし私の批評によって作品そのものに傷を付けてしまうのだけは避けたい。あれだけ多くの反響を受けて生半可な気持ちで無責任なことは書けない。

 だからこそ前回の記事とTwitterでは十分に説明できなかった点も踏まえ、私が持てる全ての知識と経験、根拠と熱意を持って断言させていただこう。

 

 「本作『エースコンバット7』はもはや面白くもなんともないフライトゲームになってしまった」と。

 

※本記事にネタバレは含まれませんが、面倒くさいウンチクが多分に含まれます。 

 

 

以前書いた記事

mrbird.hatenablog.com

 

 

・空を飛ぶ恐怖

 

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空は美しい。

 

 誰もが一度は目を奪われた経験があるはずだ。「どうして空の色は変化するのだろう」と疑問に思ったのは幼稚園の頃だった。それ以降、取り憑かれたように空を眺めた。

 

 時は経ち、気付いたら私は航空自衛隊の初等練習機「T-7」のコックピットに座り、その手でスティックを握っていた。初フライトから数回目の訓練。山岳の上空を飛行していた。山肌を滝のように流れる雲を見て感動したことを覚えている。

 そこからはあっという間だった。急に雲が自分の下を埋め尽くしたのだ。その時はVFR(有視界飛行方式)といって雲から距離をとって飛行しなければならない訓練だったので雲を突っ切ることはできず、基地へ戻るには雲の穴を探してそこから降下しなければならなかった。そして穴を探すことに必死になっていた私は自分が今どこを飛んでいるのかわかならくなってしまった。

 もちろんHSIといって機位を表示する装置はある。しかし机上で学んだとはいえ、飛び始めてまだ日の浅いパニック状態の私がそれを使いこなせるはずもない。後席の教官は何も言わない。助けてはくれない。全て理解しているから。

 

 その日以降、空を「美しい」と思うことより「怖い」と思うことの方が多くなった。そして戦闘機に乗るようになってからも「今日こそは駄目かもしれない…」と覚悟する日は増えていった。

  

 

 

今回、本作『AC7』の気象についての私のツイートに大きな反響があった。

 

 

 これは決して大げさな表現でない。パイロットという人種は嘘はつかない。誇張もしない。見たまま聞いたままを表現するよう徹底的に教育されるからだ。

 

 私は本作をディスプレイとVRの両方でプレイしたが、その両方でバーティゴ(空間識失調)を経験した。

 改めて説明すると、バーティゴとは雲中や夜間などの十分な視程が得られない環境を飛行すると空と地面の区別、上昇しているのか降下しているのか区別がつかなくなる症状のことだ。

 そして私の同期で現役のF-15F-2パイロットにもプレイしてもらったところ確かにバーティゴに入るとのことだった。

 更にTwitterで集計を行い、8割以上のプレイヤーがバーティゴを経験したという結果が出た。

 

 

 この結果に驚くことはなかった。結果など解りきっていたから。

 バーティゴというものは人間の生理現象で、ベテランパイロットか否か関係なく発生する症状なのだ。残りの2割の方も飛行機に乗って雲中でバレルロールのひとつやふたつ行えば必ず体験できる。

 質問にもあったがバーティゴは慣れで防げるものではない。何千時間飛ぼうがバーティゴは起こる。だからこそパイロットは計器飛行を習熟するのだ。これは飛行機というものが発明されてから現在まで変わらない。

 

 

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敬愛する操縦士であるサン=テグジュペリの著書『夜間飛行』にもバーティゴが描かれている

 

そして私は以下の様なツイートをした。

 

 

 航空機に搭載される装置や計器はどれも必要不可欠なもので、必要の無いものなど何一つない。しかし計器飛行に限って言えば、一番重要なのは姿勢指示器(AI)だと言える。解りやすくする為に極端に言うと、飛行機の機首(ピッチ)が上を向けば上昇し、下を向けば降下する。機首が上下どちらに向いているか、翼の傾き角(バンク)を表示したものがAIなのだ。

 だからバーティゴに入ってもAIを見れば、ピッチの上下とバンク角、どちらが地面でどちらが空かを判断できる。

 

 しかし本作をプレイ中、あることに気付いた。安定した速度で水平飛行しているにも関わらず、機体が上昇または降下することがあるのだ。プレイされた方はお気付きだと思うが、本作ではタービュランス(乱気流)までもが再現されている。そこでAIと合わせて高度計(ALT)と昇降計(V/V)のクロスチェックが必要になってくる。

※本作では必ずしもすべての計器が機動に連動して動くわけではない。

 

 

  航空機は、いくらピッチが上を向いていたとしても必ず上昇しているとは限らない。もしピッチは上を向いていて降下している場合、下降気流に捕まったか失速(ストール)しているか、またはその両方だ。

 恥ずかしながら、私は最初なぜ高度が安定しないかさっぱり解らなかった。正直言うと「所詮ゲームだし、いくら天候が悪くても気流は安定しているもの」と思い込んでいた。現役パイロットにプレイさせても高度が安定しないから戸惑うだろう。私の様に「所詮ゲームだから」と思い込んでいるから。

 

 

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 長々と説明したが、書いていて改めて本作の気象の再現度は素晴らしいと思う。実際のパイロットが訓練で使用するシミュレーターは更に細かい気象条件を設定できるが、はっきり言ってお粗末なものだ。何故ならそこには「空の恐怖」が再現されていないからだ。決して本作の気象の恐ろしさはオーバーな表現ではない。寧ろ控えめと言っても良い。

 私はフライト中、被雷した経験が無く、そもそも雷雲は避けるのが基本なので何とも言えないが、数回被雷したくらいで本作のように電気系統が壊れることはない。まああれだけ打たれれば壊れるかも…。気になる。

 もちろん着氷するような環境も避けるのが基本。それでも場合によっては雨に打たれると着氷は発生する。本作でも再現されているように着氷によってストールしやすくなるし、エンジンのコンプレッサーに着氷すれば「コンプレッサーストール」が発生し最悪の場合エンジンがフレームアウト(停止)する。

 だから航空機には被雷する可能性を減少させる装置、被雷してもダメージを受けない為の装置がある。そして着氷しやすい箇所を熱で暖めて着氷を防ぐ装置も備わっている。興味があるひとは調べてみると良いだろう。

 

空を飛ぶという行為は非常に怖いものなのだ。

 

 

蛇足として。

 

 ツイート内で私は、「飛行機は嘘をつかない」と発言した。これは私の言葉足らずで多くの方に誤解を招いた。お詫び申し上げたい。でも基本的に私の言いたいことは変わらない。

 確かに機械という人の手で作られたものに確実正確なものなど無いことは断言できる。(ぶっちゃけジャイロ効果を利用しているAIはアクロバット飛行をするとすぐに狂う)

 しかし世界中のパイロットに「バーティゴに入った時、自分の感覚と計器のどちらを信じるか」と聞けば世界中の全パイロット(ある程度訓練を受けた学生パイロットも含め)が「計器を信じる」と答えることも断言できる。

 人間の感覚とは決して正確では無いことはパイロットが一番理解している。何故なら自分の感覚に頼ったパイロットがどうなるかを知っているから。(しかし飛行機も車や自転車と同様で感覚で操作する必要もあることも確か)

 飛行機の故障が原因で事故に繋がった事例は数多くある。それでもパイロットは飛行機を信じるし、計器を信じる。100%故障していると確証が得られるまでは信じ続ける。だからパイロットはよく「飛行機は嘘をつかない」と言う。それがパイロットなのだ。

 

 

・有人戦闘機と無人戦闘機、航空戦の未来

 

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  本作をプレイしているひとのコメントやレビューを見ていて「無人戦闘機の機動が現実離れしていてウザい。ストレス溜まる。」という意見が多かったように思う。私自身も「無人戦闘機ウザい、ストレス溜まる」と思った。

 

 しかし、無人戦闘機の「機動が現実離れ」という点は少々説明が必要かと思う。

 

 我々人間が耐えうるGは(+9G〜-3G)である(対Gスーツを着用した場合)。ひとによっては筋肉と耐性である程度の誤差があるが、9Gを超過すると血流が下半身に溜まり脳に酸素が供給されなくなって気を失う、所謂「G-LOC」が発生する。逆に-3Gを下回ると上半身に血が溜まり眼球が充血して視界が真っ赤になる「レッドアウト」が発生する。

 

 

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 この(+9G〜-3G)という制限は人間の構造上のものであって、決して機体の限界では無い。機体は人間よりも頑丈なのでこの制限を超えたとしても壊れることはまず無い。

 だから有人戦闘機よりも無人戦闘機はG制限が緩く、人間であれば失神する旋回・急降下・急上昇といった機動が可能なのだ。

 

 

 そして敵エースパイロットとの空中戦。あの信じられ無いような機動も現実に可能だ。

 

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まあ時たま「そりゃないだろ」という動きをする時もあるけど…。

 

 上記のような機動を可能にしているのが「推力偏向ノズル」といったもののおかげ。多分調べればノズルの動きがわかる動画があると思う。

 

 

 

そして航空戦の未来。

 

本作の物語冒頭でこんなセリフがある。

 

「技術のスピードを侮る奴はあっという間に置いてきぼりをくっちまう」

 

 航空宇宙産業はどの分野よりも最先端技術を使用している。国家の存続をかけた戦争で使用される戦闘機となれば尚更だ。そしてこれまた戦闘機パイロットなら誰しも認めることがある。

 

現代の航空戦では勝敗を決める要因は操縦士の技量ではなく技術力だということ。

 

 夢のない話になってしまうがこれが現実なのだ。ミサイルの性能が良い方が勝利し、戦闘機の性能が良い方が航空優勢を確保する。

 現代の戦闘機とは、敵に気付かれないようこっそりとミサイルの最大射程まで近付いて発射するのがセオリーだ。だから「ミサイルキャリアー」と揶揄されることもある。

 それでも各国は、不意の遭遇戦に備えて近接の空中戦(ACM)の訓練を実施している(よくドッグファイトと呼ばれるやつ)。

 

 だから有人機同士であればより性能が良い方が航空優勢を確保し、有人機対無人機であれば無人機が勝利する。

 

こればかりは避けられない空中戦の未来なのだ。

 

 

 そして本作最大の特徴と言っても良いのがVRでの空中戦。

 特に語ることは無い。多分プレイした本人が一番わかると思う。誰でも簡単にリアルなドッグファイトを体験できるのは凄いことだ。

 戦闘機パイロットは空中戦の最中、最大9Gを体に受けつつも敵機を見ながら操縦しなければならない。手でキャノピーを押さえ、体を捻って真後ろを確認(check six)しなければならない。もしこのダルさを体験したいなら友人に体を思い切り押さえ付けてもらいながらVRでプレイするか、本当に戦闘機パイロットになるしかない。

 

 ちなみに話変わって、私個人的に衝撃を受けたのはトラックからUAVを発射するやつ。あれって本当にあるのだろうか。あれが現実にあったら滑走路なんかいらないから戦略的価値高いよね。

 

 

蛇足で。

 

これまた私のツイートでの発言。

自衛隊は戦後空中戦をしたことがないだろ」という意見をいただきました。これにつきましても私の言葉足らずが招いた誤解です。戦後日本と他国間での空中戦は発生しておりません。

 しかし、ひとつだけ譲れない点があります。戦闘機パイロットは例えそれが訓練の空中戦であっても本物の空中戦、つまり実戦だと思って臨んでいます。これは何も戦闘機パイロットに限ったことではなく、あらゆるスポーツの試合や学業の試験に臨んだことのある人なら理解していただけると思います。「訓練は実戦の如く、実戦は訓練の如く」。

 常に実戦を意識しているからこそ、死を意識するほど厳しい訓練をしているからこそ、戦後日本と他国間での空中戦は発生していないのです。

 

 

・空を飛ぶということはどういうことなのかを描いた『AC7』

 

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 記事の冒頭、私は「本作『エースコンバット7』はもはや面白くもなんともないフライトゲームになってしまった。」と断言した。

 

 何故たかがゲームのくせに「空の恐怖」や「自機より高性能の戦闘機、無人戦闘機との厳しい空中戦」を体験しなければならないのか。実際のフライトで本物の戦闘機パイロットが直面するストレスを感じなければならないのかと思ったからだ。こんなの面白いわけがないし、ストレスが溜まる。

 

 多くの方からもコメントをいただいたように、『AC7』よりリアルなフライトシミュレーションゲームはたくさんある。実機のようにスイッチ一つひとつを操作できたり、実戦的な運用ができたりと。

 

 しかしそれらのゲームよりも本作の方が「空とは何か、空中戦とは何か、空を飛ぶとはどういうことなのか」、そして「空を飛べるということはどれ程格好良いものであるか」を追求して事細かく表現している。

 

 正直、過去作はお口ポカーンしてても何とかクリアできた。気楽に楽しめた。でも今作は一筋縄ではいかない実際のフライトの様な煩わしさがある。

 だからこそ私は、本作は面白くないフライトゲームだと断言できる。

 

 本物のパイロットはリアルなフライトゲームを嫌う傾向がある。そもそも手に取ることなど殆どない。先ほども述べたように「なんでゲームで実機みたいな面倒くさいことをしなきゃならないの」という理由。リアルなゲームが好きな人間もいたがほんの僅かだった。まあ私はリアルなゲームも好きだけど(笑)

 

 確かに本作は面倒くさいゲームになったが、それでも他のフライトゲームに比べたら飛行機に詳しくないプレイヤーでも取っ付き易く、そして何より楽しめるのが最大の魅力。だから私が長々と述べてきたウザったい知識や小難しいうんちくなんかこれっぽっちもお呼びじゃない。

 

 

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 そして今回はあえて本作の物語に言及しなかった。是非自分の目で観て欲しい。『エースコンバット』というゲームは、空・戦闘機・音楽・物語が揃って始めて完成する作品なのだ。もちろん私にとって本作の物語は十分楽しめるものだった。やはり『AC』シリーズはこうでなくちゃと思わせてくれる脚本だった。

 

 航空関係に詳しい人かパイロットがこの記事を読んだら、「基礎的な知識だけ並べてばかりで全然専門的な説明になっていないじゃないか。一般のマニアですら知ってることだ」と思われるかもしれない。その点は、教えたくても教えられない事情、本シリーズと飛行機に詳しくない人への解りやすさを優先した為仕方がないという便利な理由で許していただきたい。そもそも私が本当に元戦闘機パイロットかどうかさえ疑わしいものなのだから。

 

 

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 もし本作をプレイして興奮が冷めない方は戦闘機パイロットを目指すことを強くお勧めする。

 確かに狭き門ではある。運良く採用されてもパイロットになれないこともある。先輩や教官からの厳しい指導もある。決して簡単な道ではない。それはそうだ。国防という任務に就く以上、世界で一番精強なパイロットになることを求められるからだ。

 

 そしてパイロットにとって一生付きまとう何よりも恐ろしいものは、今回紹介した「空の恐怖、死の恐怖」ではない。

 

 それは夢であるパイロットへの道を断たれることだ。規定の練度に達せずに教官から言い渡される「技量免」、身体的不具合で言い渡される「身体免」。自分はパイロットには向いてないと考えて自ら諦めてしまう「自己免」。

 そして宴会芸でスベってしまうという恐怖…。

 

 それでも同じ「空」が好きな仲間であり戦友を得られる。地上の生活では味わえない興奮を体験できる。

 「戦闘機操縦者」という生き方ほどやりがいのあるものはない。

 

 

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 最後に。

 

 本作は『エースコンバット』というブランドが今までに培ってきたノウハウと熱量を垣間見ることができた作品だ。

 一人のパイロットとして、一人の飛行機好きとして、そして一人のゲーマーとして拍手と感謝の言葉を贈りたい。

 数あるフライトゲームの中で、パイロットを目指す者に手渡す一本を選べと言われたら、胸を張って本作を手に取る。

 そして私のブログとツイートにいいねやコメントを下さった皆様にも感謝したい。やはりウィングマンがいると心強いものだ。

 

 『エースコンバット』はパイロットになろうと思ったきっかけを作ってくれた作品であり、戦闘機を降りた今、改めて戦闘機を自らの手で操って空を飛ぶ素晴らしさを教えてくれた作品だ。

 

 本当にありがとう。

 

 

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